データ利用事例

 災害への取り組み

山岳氷河モニタリングへの ALOS データの利用
RESTEC
研究部 冨山 信弘

■ はじめに

 近年、世界中の多くの山岳氷河において、地球温暖化の影響と考えられる氷河後退(氷河が溶け出して少なくなることにより、氷河の先端部が徐々に下がっていく現象)が急速に進んでいる。山岳氷河は周辺で暮らす人々にとっては重要な水資源であり、飲料水や農業用水、水力発電など生活のあらゆる面で利用されている。急速に 進む氷河後退は、近い将来、深刻な水不足を引き起こしかねない。山岳氷河の変遷を調べることは水資源を管理するうえで重要であり、地球観測衛星によってモニタリングしていくことが望まれている。  山岳氷河のモニタリングは、上述したような環境面だけでなく、災害監視・減災の観点においても重要である。 氷河から溶け出した水は、氷河の先端部近くに氷河湖を形成することがあり、氷河湖が決壊すると下流域に洪水被害をもたらす危険性がある。1994年にブータンで発 生した氷河湖決壊洪水は90km以上も離れた下流域で大きな被害をもたらし、20名以上の死者が発生した。 以上のように、地球観測衛星による山岳氷河のモニタリングは、環境と災害の両面においてとても重要である。


■ ALOS データを利用するにあたって


(左)AVNIR-2の画像 (右)パンシャープン画像
図 1 AVNIR-2 とパンシャープン画像の比較

水資源の管理といった環境監視の側面から山岳氷河のモニタリングを考えた場合、氷河が蓄えている水量を推定するために、氷河の高さを抽出することが重要である。 これまでの衛星リモートセンシングでは、画像から氷河の範囲を面積で把握することはできたが、高さまで求めることは困難であった。ALOSに搭載されたPRISMは3方向視のセンサを活かして高さを求めることが可能であり、PRISMデータを活用することにより、氷河の高さを求め、氷河の水資源量推定への応用が考えられる。
 次に、災害監視の観点から氷河湖をモニタリングする場合だが、氷河湖の決壊の危険性は氷河湖そのものの大きさ(面積)だけで判断されるわけではない。氷河湖はモレーン(氷河が削り出した岩石・岩屑や土砂などが土手のように堆積した地形)が氷河から溶け出した水を堰き止めてできているため、このモレーンに崩壊の危険性がないか把握することが重要である。モレーンの状況を把握するためには、比較的、空間分解能が高い画像が必要となるが、ALOSに搭載されたPRISMと AVNIR-2のデータで作成されるパンシャープンのデータが有効と考えられる。  山岳氷河は急峻な山岳部の谷地形に発達しているものが多く、雲がかかりやすい地形的な特徴があるため、光学センサでは観測できないことが少なくない。そこで活躍するのがALOSに搭載されたPALSARである。 PALSARは雲を透過して観測ができる上、氷河湖のように滑らかな表面を持つところが非常に暗く目立って見えるため、新しい氷河湖の検出などにも適している。 このようなALOSデータの特徴を活かして、RESTECでは、2006年度より ブータン・ヒマラヤ 地域における氷河湖 モニタリングや、ボリビア・アンデス地域における氷河の高さ検出などを行ってきた。次章で具体的な利用事例を示す。


図 2 PALSAR による氷河湖の見え方


■ ALOS データを利用した事例


図 3 ルナナ地方の氷河湖の面積変化



図4 PRISM DSMの高さ情報から推定した河川氾濫域

  (1)ブータン・ヒマラヤ地域における氷河湖モニタリング 「平成18年度 財団法人新技術振興渡辺記念会助成研究」としてブータン・ヒマラヤの氷河湖モニタリングに取り組んだ。図3に示すグラフはブータン・ヒマラヤのルナナ地方に存在する3つの氷河湖の面積の推移である。2006年以前のデータはALOSのものではないが、 過去から様々な地球観測衛星が観測してきたデータを時 系列的に解析することによって、その変遷を知ることができる。

 衛星データをこのような氷河湖の監視に利用するだけでなく、氷河湖決壊洪水が発生した際の被害域を推定することに応用することも考えられる。図4は PRISMから作成した DSMデータ(高さの情報)を利用して、1994年に実際に洪水が発生したときと同じ2mの水位上昇した場合に浸水する領域を推定したものである。プナカ・ゾンと呼ばれるこの地域の政治と宗教の中心地となる大型建造物をとり囲むように浸水域が抽出されているが、 1994年の洪水によって浸水した領域と良く合っている。 このような情報を利用してハザードマップを作成するなど、被害軽減へのALOSデータの応用が考えられる。

(2)ボリビア・アンデス地域における氷河の高さの検出世界銀行のCLIMATE CHANGE INITIATIVES GRANTSの枠組みにおいて、ボリビア・アンデスの氷河モニタリングに関する調査を行った。
水資源として氷河の体積量を推定するためには氷河の 高さを求める必要があるが、氷河やその周囲の雪山など は一面白くみえるため、画像処理の原理上、高さを求めることが困難である。しかし、PRISMデータを利用 してDSMデータを作成したところ、図5のように氷河や雪山のところでも比較的良好な高さの情報が求められた。この理由として次のような2点が挙げられる。
 ひとつは空間分解能が2.5mと高分解能であること。 一見、真っ白に見える雪山や氷河でも、分解能が高くな ると、所々僅かに見える岩肌や凹凸による影などが認識 できるようになり、その高さが求められる。こうして高 さが求められる個所は限られているが、その高さをもと に周囲を内挿して補うことができた。
 もう一つの点は PRISM が3方向視のデータを持つことである。一般にステレオ視による高さ情報の抽出には2つの方向から観測されたデータがあれば処理は可能となるため、3方向のデータから 輝度の飽和が少 ない2つを選択 して解析できる ことも良好な結果につながった。


図 5 PRISM 画像の 3D 表示

■ 終わりに

 今回の取り組みによって、山岳氷河のモニタリングにALOSデータが有効であることが分かってきた。現在、 氷河湖決壊洪水が心配される氷河湖がアジアのヒマラヤ地域だけでも200個以上存在するといわれる。今後とも RESTECでは、外部の機関とも協力しながら、ALOSデータを用いた世界の山岳氷河のモニタリングに取り組んでいく予定である。

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